江里はみんなと生きていく

2024年10月26日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
予告編
Traailer
イントロダクション
Introcution
12年にわたって捉えられた「ともに生きる」人々の姿
西田江里さん     生まれも育ちも千葉県浦安。オシャレと絵を描くのが大好きな22歳です。重い障害を持つ江里さんは、母・良枝さんと自宅で暮らしています。24時間365日の介助が必要で、家族だけで命を守ることができません。日常を支えているのはケアスタッフ。車いすを押してもらって買い物に行ったり、リサイクルショップで一緒に働いたり、外食したりと、楽しくも忙しい毎日を送っています。そんな江里さんにカメラが密着。12年という撮影期間のなかで、様々な出来事が起こります。気管切開して人工呼吸器を装着するか否かの選択を迫られたり、母から自立してひとり暮らしを始めたり楽しいしい暮らしぶりだけではなく、医療的ケアが必要になっていく不安や葛藤も映し出していきます。さらに、新米だったケアスタッフも成長し、結婚・出産という人生の転機にも立ち会います。長い時間を共有するなかで、単にケアをする・されるといった立場をこえて、ともに生きる関係性を育んでいく江里さんと仲間たち。一人一人のいくつもの人生の局面をあたたかい眼差しで映像にとどめ、その営みに生きる希望を見出したドキュメンタリーです。
『妻はフィリピーナ』『もっこす元気な愛』の寺田靖範監督。19年ぶり、待望の最新作!
監督は、フィリピン人女性との結婚生活を自ら記録したデビュー作『妻はフィリピーナ』(1994)で第34回日本映画監督協会新人賞を受賞し、2作目の『もっこす元気な愛』(2005)では、重度の身体障害者とその恋人・友人を取り巻く愛と友情を描いた寺田靖範。12年という長い年月、西田家の暮らしを記録し、見つめ続けた先には、人が生きる歓びと関わる人たちそれぞれの人生が交差する瞬間が訪れます。作品を発表するごとに、様々な「愛のカタチ」を描き続けてきた寺田監督の19年ぶりの最新作です。
監督
Director
監督寺田靖範てらだやすのり
1964年愛知県生まれ。早稲田大学卒業後に進学した日本映画学校(現・日本映画大学)でドキュメンタリーを学ぶ。在学中に撮影を開始したセルフドキュメンタリー『妻はフィリピーナ』を1993年に発表、第34回日本映画監督協会新人賞を受賞した。2006 年には脳性まひの男性を主人公にした『もっこす元気な愛』を発表。2014 年、映像制作会社・おもしろ制作を設立。TV番組やWEB 動画のプロデューサー、ディレクターも多数務める。
Director’s message
浦安の街で生きる西田江里さんと良枝さん。そしてその命を支えるヘルパーや医師や看護師たち。この暮らしぶりを映像にとどめたいと思った。江里さんの障害は重い。食事や排せつをはじめ、呼吸するのも他者の助けが必要だ。ひとりでは何もできない弱者だが、実に幸せそうに生きている。それを可能にしているのは、母親の良枝さんが筆舌に尽くしがたい苦労を重ねて、この地に様々な福祉サービスを根付かせてきたからだと言っても過言ではないだろう。
これについては、一般的な「図式」だと、母親が娘のために様々な福祉サービスをこの街に作ってきたということになるのだが、わたしは、江里さんが母親をしてこの街に福祉サービスを作らしめたのだと考えている。社会福祉法人〈パーソナル・アシスタンス とも〉は、江里さんが江里さんのために作ったのだが、それは決して自身のためだけでなく、支援を必要とする市民すべてに役立つように作られたものだ。
ここ数年、福祉の人材不足は深刻で、利用者は充分な支援サービスを受けることが難しくなっているが、〈とも〉は100人をこえるスタッフが、地域に暮らす1000人ほどの市民の生活を支えている。
わたしは、無批判に良枝さんや〈とも〉を称賛する者ではない。この取り組みを一般化するのも簡単ではないだろう。しかし、浦安の街で展開されているこの実践は夢物語ではなく、現実だ。この試みが今後、発展していくのか、もしくは衰退していくのか。その将来は楽観できないが、本作が江里さんを中心とした営みが浦安に確かに存在したという証になり、悩み苦しみながら生きている人たちのひとつの道標になれば幸いである。
映画に登場する人々
Cast
西田俊光
岡和田学
(主治医/順天堂大学医学部附属順天堂医院小児科医)
*撮影当時
前田浩利
(小児訪問医療専門医)
梶原厚子
(訪問医療看護師)
木内昌子
(訪問医療看護師)
弘中祥司
(摂食・嚥下専門医/東京都立東部療育センター)
*撮影当時
池田君子
(障害者水泳指導者)
西田江里にしだえり
1989年、千葉県浦安市生まれ。生後7か月で障害のあることがわかる。幼稚園、小学校、中学校を地元の普通学級で学ぶ。高校は養護学校高等部に入学するが、訪 問学級に転籍。フリースクールを併用して過ごす。2008 年、〈パーソナル・アシスタンス とも〉に入社。2016 年からヘルパーをはじめとする支援者たちに支えられながら自宅でひとり暮らしをしている
Message
この映画を見て、色々な人が元気になってくれたらいいなと思います。この映画を見て、私みたいに重い障害があっても地域で暮らせるんだなって思ってほしいです。障害があってもやりたいことや夢を諦めないでほしいです。
私の周りには、たくさんの人が居てくれています。その人たちがいなかったら私の生活はありません。私はその人たちの力や知識を使っています。私だけだったら何もできません。色々な人がいるので、嬉しいことや楽しいこともあるけど、悲しくなったりすることもあります。私はそれも含めて、1人暮らしを続けていきたいです。私のそんな生活の様子を知ってほしいです。
えりさんからの自己紹介
こんにちは。西田江里です。私はヘルパーさんを使って浦安で1人暮らしをしています。
私には重い障害があって、一人で歩けないしご飯を食べることもできません。それでも私にはやりたいことが沢山あります。私はやりたいことをやるために、色々な人に協力してもらって日々過ごしています。私は「重い障害があっても地域で暮らしていけるよ」って伝えるために、本を執筆したり、講演会に参加したり、色々な人と出会っています。色々な人と出会うことで私は沢山の刺激をもらっています。色々な人とこれからも出会い、私の生活を広めていきます。
私の好きなものは洋服です。洋服を見ると心が躍ります。
お出かけも好きで、色々な所に行くのが私の楽しみです。お出かけをすると、お花を見たり、動物を見たり、買い物をしたり色々な事ができます。それは、私にとってどれも貴重な経験なのでお出かけが好きです。
私はみんなと出かけるのも好きです。年に一度は私の誕生日に、ヘルパーさんやお友達のみんなに声をかけてディズニーに行きます。毎年私はそれを楽しみにしてい ます。ヘルパーさん達とは一緒に出かける時もあるし、友達として遊ぶこともあります。不思議な関係だねって時々言われますが、私には心地良い関係です。
岡村あかねおかむらあかね
旧姓 林
短大卒業後、障害者施設で働くことを目指し、専門学校に入学。介護福祉士資格取得。2008年、〈パーソナル・アシスタンス とも〉に入社。20 代でケアスタッフのリーダーに就任。2017年に第一子、2021年に第二子を出産。現在は時短勤務ながら、リーダーとして従事している。
Message
私がえりさんに出会った時は、指談ができなかったので、表情と声と動きでコミュニケーションを取っていました。新人の私は何も分からず、えりさんに呼ばれても振り向くことが出来ませんでした。そんな関係から始まり、今はお互いにかけがえのない存在になりました。えりさんには介助が必要、私は介助ができる。えりさんは私をいつも精神的にサポートしてくれる。学ばせてくれる。気付かせてくれる。この相互作用が私たちのつながりなのかなと思います。私はこの仕事をして、人生が豊かになりました。人の人生に一番近くで寄り添うことができる、この仕事を誇りに思います。
西田良枝にしだよしえ
〈パーソナル・アシスタンス とも〉理事長。千葉県浦安市在住。1992年、浦安市の福祉と教育の改善を求めて〈浦安共に歩む会〉を発足。行政への政策提言を行 い市内の福祉制度やサービスを充実させ、教育では子どもと保護者が進学先を選べる条約を策定させた。2001年、障害当事者のニーズを理解している自分たちがサー ビスの担い手になろうとNPO法人を設立。2006年に社会福祉法人へと変更。現在に至る。
Message
幼稚園のお遊戯会。カメラやビデオを撮るセンスがない私だけれど、江里のような障がいを持つ子どもが、幼稚園の中でともに生きている姿を多くの人に知ってほしい、いつか伝える機会が来るかもしれないと、撮影した30年前。江里には障がいはあるけれど、みんなと同じ、一人の子どもなんだよ、と知ってほしかった。障がいという人との違いがあっても、その人の存在を感じることができる距離で、いっしょにその場にいること、いっしょに何かをすることで、実感をもって理解してもらえるのではないか、理解してほしいと願っていました。そのための環境は親として自分がつくっていくのだとわき目もふらず一本道を歩いてきました。
作品の中の私は、怖い上司で……なんか感じも悪く……ただただ必死だったのは確かなのですが、恥ずかしい限りです。その必死さゆえに、気がつかなかったことをこの作品は気づかせてくれました。
私は親として云々と思っていましたが、江里が力強く周りの人と生きている。私の知らないところで、支援をする人たちとの関係性をしっかりと結びながら自分の世界を生きている。当たり前にきまっているのに、渦中にいる私はわかりませんでした。
人はどんな状態であっても相対するとき、心を通わせ通うようになるもので、そこには本来対等な存在としての関係性があるのだと気づかせてもらいました。江里が生まれた瞬間「愛が生まれてきた」と思いましたが、命はみんな愛の存在で、その愛を与えあい、分かち合いながら生きていく。一人では生きていけない命でも、そうすることで絶望ではなく、希望が見える。それを教えてくれたのがこの作品であり、江里とその時々にかかわりながらともに生きてくれたみんなであり、感謝の気持ちをすべての方に伝えたいです。
花田恵はなだけい
旧姓 田久保
2008 年、彰栄保育福祉専門学校卒業後、〈パーソナル・アシスタンス とも〉に入社。ケアスタッフとして従事。本作制作中の2022年、第一子を出産。現在二児の母。
Message
ともに入社し、江里さんと出会い、仕事をしていく中で、いろんな価値観や考え方があることを知りました。言葉がなくても利用者さんの表情や視線、声のトーン、体の動きで気持ちを表してくれることでコミュニケーションがとれることなどを学びました。
今、子育てしていて役に立つこともあります。
夢だった本を出したり、夢を叶えるために行動している江里さんはすごいなあって思います。そんな江里さんのパワーを感じてもらえると嬉しいです。
スタッフ
Staff
撮影水戸孝造みとこうぞう
1985 年、東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。電通PRセンター(現・電通PRコンサルティング)にて契約カメラマンを務めた後、〈水戸写真事務所〉を開設。2003年、介護保険情報誌の取材で〈パーソナル・アシスタンス とも〉と出会う。以降、数回にわたって取材をするうちに、ともの広報に関わるようになり、現在に至る。
Message
江里さんとは彼女が14 歳の頃からの付き合いになるが、目を合わす度に心を覗かれているような気がしているのは当時から変わらない。
音楽飯田俊明いいだとしあき
NHKドキュメンタリー「沁みる夜汽車」、ドラマ「生きて、ふたたび保護司・深谷善輔」などTVの他、六本木ヒルズ時報、ゲーム、愛知万博、安藤美姫アイスショーなどに作品提供。また池田直樹、岡本知高、田代万里生、中島啓江、平原綾香、ミネハハや劇団四季、宝塚歌劇団、二期会などの多彩なヴォーカリストをピアノ、作編曲の両面からサポートをおこなう。ホリプロ60周年オールスターミュージカルCD、伍代夏子「雪中相合傘」MVなど数多くの作品を手がける他、山根基世、進藤晶子、中村獅童、二木てるみなどとの朗読の共演も多い。PTNAデュオ特級最優秀賞受賞。
Message
映像を見て、江里さんの魅力を端々に感じた時、歌ではないのだけれど、自然に「エリ、エリ」という歌詞を口ずさみながら、メインテーマを作っている自分がいました。江里さんの日常に溢れる誠実な、けれど何気ない温かさも込めて。伝わっていたら嬉しいです。
プロデューサー島田隆一しまだりゅういち
ドキュメンタリー映画『1000年の山古志』(2010、橋本信一監督)に助監督として参加。2012年、ドキュメンタリー映画『ドコニモイケナイ』を監督。同作品で2012年度日本映画監督協会新人賞を受賞。2014年、ドキュメンタリー映画『いわきノート』に編集として参加。2016 年、プロデューサーとして参加した作品『桜の樹の下』(2015、田中圭監督)が劇場公開。本作品は、ドイツの映画祭ニッポン・コネクションにて観客賞と審査員特別賞、第71回毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞を受賞した。2020 年、福島県双葉郡広野町を舞台としたドキュメンタリー映画『春を告げる町』が公開。同作は山形国際ドキュメンタリー映画祭2019ともにあるCinema with US 部門、第11回DMZ国際ドキュメンタリー映画祭アジアコンペティション部門正式出品。2022年、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『帆花』(2021、國友勇吾監督)が公開。監督最新作として、2023年に『二十歳の息子』が公開された。現在、日本映画大学准教授。
コメント
Comment
親亡き後を親ある時に
「江里は江里。自分は自分」と覚悟しながら、皆んなと命を紡いでいる。
えりさんの呼吸する意欲、それを受けとる家族の、
支援員チームの、医療従事者の意欲、
そして、カメラを向け制作するスタッフの意欲が融合する作品。
プールでの江里さんと皆んな が人魚のようだった。
東ちづる(俳優・一社Get in touch 代表)
人は誰かに支えてもらってばかりというわけではなく、
必ず誰かを支えている。
それが目に見えないものだったとしても感じる事ができ、
互いに必要とする、シンプルで1番
大切な繋がりだという事を思い出させてくれました。
安藤なつ(芸人)
命をつないで、たくさんの記憶を分かち合う。
江里さんの家に遊びにきた小学校の同級生の一人が口にした
「ここは極楽」という言葉が響く。
江里さんのまわりに自ずと発生し、受け継がれるコミュニティは、
孤立が蔓延する現代社会にとっての希望だ。
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター教授)
障害が重く、医療的ケアも欠かせない江里さんが普通学級で学び、
地域で一人暮らしをする。
それぞれの場面でクラスメイトが、
専門のヘルパーさんが江里さんに深く関わる。
江里さんはみんなに囲まれ、みんなと生きていく。
映画を観て得られるのは感動ではなく共感である。
いいないいな、こういう地域って素敵だな。
浅野史郎(元宮城県知事/元慶應義塾大学教授)
重い障害のある江里さんを支える医療や福祉は、
現実問題としてまだまだ十分ではありません。
そうした環境の中で、親としてどう手を離すか、
この作品は江里さんの物語であるとともに、
親御さんの勇気の物語でもありました。
見終わって、「江里はみんなと生きていく」という
映画のタイトルが心に沁みました。
村木厚子(全国社会福祉協議会会長/元厚生労働事務次官)
みんながピリピリしているときの、
不安に満ちた江里さんの目。
赤ちゃんを抱っこしたときの、
愛に満ちた江里さんの目。
その目にやどる抑揚に、物語に、光に、
生きることの全てが詰まっていた。
澤田智洋(コピーライター)
幼い頃からの写真や映像の壮絶さに息をのみました。
母親の良枝さん、どれほどの試行錯誤と睡眠不足と
孤独感を抱えてご苦労されたことか!
私には昨年事故で両足を失った娘がいます。
江里さんと一つ違い。
一人暮らしを始めてから指談を覚え
「重い障害があっても地域で暮らしていけるよ」と
発信している江里さんの活動は
娘にとって励みになることでしょう。
江里さんありがとう。
神田香織(講談師)